東京で暮らし始めた時、すでに東京の大学へ通っていた兄が「東京は戦場だ。気を付けろ」と冗談めかして言っていた。確かに、学生運動が、一時に比べれば下火になっていたが、まだまだ勢いがあった頃で、兄は自分の靴を戦闘靴と呼び、部屋にはヘルメットまであった。でも運動をしている気配はなかった。まあ、それはともかく、その戦場だった東京が、クールファイブの歌ですっかり砂漠と化してしまった。つかこうへい作「熱海殺人事件」の中で使われた曲「東京」の影響も大である。はてさて今の東京を一言で表現するとしたら、何が適当なんだろうか。

東京ではなかったと思ったが、老人をホームから線路に突き落とした男が逮捕された。殺人未遂だという事だ。まあ、当然だろう。「電車に引かれて死ぬかもしれないって事は分っていた」と言うのだから。でも何て素直な男だろう。「カッとしてやってしまった」と言い張れば「殺人未遂で逮捕」にはならなかったかもしれないのに。しかも自首した訳だから。それはともかくとしても、「突き落とした理由」が気になった。「点字ブロックの上に荷物を置いていた老人に注意したら無視されたから」と言っていた。昨今、そういう事で起こる事件は注意した方が被害にあうケースがほとんどだ。所謂「逆切れ」だ。でもこれは違う。「正切れ」だ。
自分も注意する事がある。点字ブロックの上に自転車や車を止めているのを見ると一言言いたくて堪らなくなる。目の不自由な方が大怪我するかもしれないのだから。でもほとんどは無視されるか筋の通らない文句を言われる。
この事件、裁かれるのは当然突き落とした男だ。でも、老人が男の注意を聞き、荷物を他へ移していたら、と言うよりも、もっと想像力を働かせて、点字ブロックの上になど荷物を置かなければ何の事件も起こらなかったはずだ。